第60回研究会「人類学からイレズミ・タトゥーを考える」

2022年7月2日(土)

議題:「人類学からイレズミ・タトゥーを考える」

講演者:山本芳美(都留文科大学教授,本研究会の世話人,文化人類学)
「新刊『身体を彫る、世界を印す:イレズミ・タトゥーの人類学』を読む」

松嶋冴衣(東北大学文学部大学院修士2年,文化人類学)
「現代日本で施術される消えるタトゥー(ジャグアタトゥー)」

(ZOOMオンラインにて開催)

第60回研究会は,『身体を彫る,世界を印す—イレズミ・タトゥーの人類学』(春風社,2022年5月)の編著者の山本芳美さんと著者のお一人松嶋冴衣さんをお迎えして,読書会形式で開催されました。

はじめに山本さんから,本の構成と各論文の論点について解説していただきました。

世界,そして日本で,イレズミ・タトゥーをめぐってどのようなことが問題として生じているのか概略を掴むことができました。またイレズミ・タトゥー及びその研究は,常に慣習と権力のせめぎ合いの狭間にあったこと,さらに現在,デザインをめぐって先住民族知的財産の文化盗用の問題が生じているとなどの知見も得ることができました。

イレズミ・タトゥーの中でも,消えるジャグアタトゥーに対しては,タトゥーではないといった認識もあるそうです.松嶋さんは,このジャグアタトゥー展開の経緯(日本では2010年代から実践,現在拡大中)と,実際に経験した人の語りの分析を発表してくださいました。一時的なタトゥーを施すことで,ある期間だけ「ワル」のキャラを演じる.顧客は,「タトゥ-らしさ」を求めると同時に,「タトゥーらしくなさ」も肯定的に受容していることが紹介されました。

また化粧論の視点から,ジャグアタトゥーによって,病気で弱くなってしまった自我像/セルフイメージを修復,補強している解釈も提示されました.。

参加者間のディスカッションでは,顧客のジェンダー(7割が女性),伝統の禁止と解放,伝統的な身体加工に通底する痛みの意味,そして文化資源の盗用に関する意見がありました。
文化盗用については,参加者から,ファッション業界では,単にデザイン資源として扱うのではなく,当事者に製作プロセスに加わってもらっていることが紹介されました。
また近現代消費社会に生きる私たちは,伝統的な共同体の制約からは解放されたものの,常に自我像・アイデンティティの不安にさいなまれていること,そしてこの堂々巡りこそが消費社会を回していっている構図についても指摘がありました。

本書の表紙には,従来のイレズミ・タトゥー関連書籍とは違って,優しく温かい雰囲気のデザインが描かれています.触ってみると,エンボス加工されたデザインが,皮膚に彫られた文様のように感じます.イレズミ・タトゥー研究に新たな風が吹き込まれていることを実感した読書会になりました。

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