第53回研究会「角層から得られる皮膚情報」

2019年 12月 7日(土)

議題:「角層から得られる皮膚情報」
講演者:平尾哲二(武庫川女子大学教授 薬学部健康生命薬科学科化粧品科学研究室)

会場:株式会社 資生堂 汐留ビル 1F PIT

皮ふのもっとも外側にある角層は、私たちの身体を守り、健やかな皮ふを保つ役割を担っている。長年、角層研究に携わった平尾先生をお招きし、ご講演をいただいた。皮ふの構造や役割、スキンケア化粧品の有用性評価まで、基礎から応用にわたる専門的な話題をわかりやすくかみ砕いてご説明いただいた。「角層には肌の貴重な情報がたくさん含まれている」と平尾先生は言う。以下、トピックを紹介し、研究会のレポートとする。

●角層とは?
皮ふは身体全体を覆う人体最大の臓器で、外部からの刺激や衝撃、侵入を防ぐバリアの役目を担う。表皮、真皮、皮下組織に分けられ、表皮は更に内側から順に、基底層、有棘層、顆粒層、角(質)層と分けられる。基底層で生まれた細胞は、形を変えながら最外層に向かい、垢となって剥がれ落ちる。このサイクルをターンオーバーというが、その乱れは皮膚の表面状態に様々な変化を起こし、美容上の問題となる。角層は主に物理的バリアとして働き、保湿や異物の侵入を防ぐ機能を担う。粘着テープを使って角層を剥離することで(テープストリッピング)、角層の形状、面積、剥離パターンを分析できる。それら形態とバリア機能、保湿機能、加齢やターンオーバーとの関連性が得られており、肌状態の評価に応用されている。

●肌の炎症にはサイトカインのバランスが関与
皮ふは紫外線や外的刺激を受けると炎症を起こす。これには角層中に存在する炎症性サイトカイン(炎症反応に関与する糖タンパク質の一種)であるインターロイキン1(IL-1α)とその拮抗分子IL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra)が関与している。平尾先生は角層から得られる微量な試料から両成分を検出する実験系を新たに構築し、紫外線に暴露される顔面と非暴露部位の上腕内側部とで角層中の含量を比較した。炎症を誘引する1L-1αは非暴露部位の上腕部のほうが高値で、炎症を制御するIL-1raは顔面のほうが高く、単独の指標では解釈が困難だった。そこで平尾先生は両者のバランスに着目した。IL-1ra/ IL-1αの比率によって調べると、顔面で値が約300と大きく、上腕では約8と小さかった。このことは、暴露部位ではIL-1による過剰な炎症反応を抑えるために、IL-1raを多く産出し、皮ふの恒常性を調整するメカニズムがはたらいていることを示唆する。単独の指標の多寡では不明だった機序が、比率を見ることで明らかになった。この比率は、皮膚内炎症を反映する指標としても有用である。敏感肌では健常肌に比べてこの値が大きく、軽い炎症が起こっていると考えられるという。

●角層細胞を覆う外壁CE
角層細胞はタンパク質の袋で囲まれている(CE: Cornified envelope)。成熟したCEを土台として細胞間脂質がきちんと配列し、バリア機能が良好な角層が形成される。バリア機能の働きが弱い肌では、CEが未成熟で不揃いな角層細胞が多いという。平尾先生は成熟段階の違いによってCEの表面にあるタンパク質の状態が異なることを見出し、未熟なCEと成熟したCEを色分けして示す染色法を開発した。この手法によりCEの成熟度を評価し、バリア機能の質を視覚的に確認するという画期的な成果を生んだ。

●肌の透明感と角層
角層細胞はケラチンと呼ばれるタンパク質を主成分として構成されている。このタンパク質が過酸化物質などによって変性(カルボニル化)することが知られていたが、皮ふへの影響は不明であった。平尾先生は角層タンパク質のカルボニル基を分析し、カルボニル化レベルを算出し、皮ふ生理や光学特性との関連を検討した。結果、角層カルボニル化タンパクの蓄積量が多い皮ふでは、角層水分量の低下、柔軟性の低下、透明感の低下が認められたという。また加齢の影響として知られる皮ふの黄ぐすみは真皮のタンパク質のカルボニル化によるものであることも解明した。

以上の研究をベースとして、平尾先生はそれぞれの現象に有効にはたらくスキンケア化粧品の開発についても手掛けられた。実験手法を開発しながら原因を追究していく、平尾先生の研究者魂に触れ、知的な興奮を掻き立てられた濃密な時間であった。

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