2022年3月11日(金)
議題:「『美白』は,『差別的』とみなされうるのか?」
講演者:小手川正二郎(國學院大學文学部哲学科准教授、新学術領域研究「顔身体学」)
(ZOOMオンラインにて開催)
BLM運動が世界的になって以降,肌の色についての認識もこれまで以上に問われるようになりました。たとえば欧米系の化粧品メーカーは,自社商品から「美白」を謳うメッセージを削除しました.私たちは,差別,美白,化粧,そして外見の関係をどのように考えたら良いのでしょうか。
第59回研究会(2022年3月11日(金)14時~16時,オンライン)では,小手川正二郎先生(國學院大學文学部哲学科准教授)をお招きし,「『美白』は,『差別的』とみなされうるのか?」についてご講演いただきました.参加者は32名で、化粧品・ファッション業界や大学関係,個人参加など,それぞれの立場で,また通常の垣根を越えて意見を交換しあうことができました.
小手川先生は,日常的な経験に立ち止まって現象を分析する現象学をご専門とされています。
紹介された事例のいくつかは,「差別か,そうでないか...うーん,どっちだろう...」と考えこみました。こうした「もやもや」感は,ご講演を通して,区別と差別の関係,差別と差別的言動,文化的な文脈,差別構造と整理されていきました。
そして話題はいよいよ「美白」問題に入っていきます。日本の大手化粧品メーカーは,美白商品に対して,段階的廃止,あるいは表現変更,あるいはまた欧米市場では廃止しアジア市場では継続など,それぞれに対処しているそうです。
美白化粧品は,直ちに差別になるわけではないけれど,性差別,人種差別,ルッキズム,エイジズム,肌色差別が絡み合った差別的言動になるリスクがあることが指摘されました。そして完全な安全策のないやっかいな問題ではあるけれど,だからこそ多様性に目を向け,対話を続け,そして自分の美的価値観を捉え直す契機になりうると結ばれました。
ご講演に引き続いて行われた参加者のディスカッションを通して,美白の問題はさらに深まっていきました。日本の色白選好も人種差別と無関係ではないことや,私たちに刷り込まれている潜在的な差別感覚,さらにルッキズム(外見が評価対象となってはならない場で外見が過度に評価され機会均等が妨げられる)などが話題に上りました。
一例として就活における女子学生への化粧の半強制も取り上げられました。同時に,化粧行為のコミュニケーションとしての意義も指摘されました。
また近代以降の経済体制とそれと無関係ではいられない企業及び生活者など,時間と空間を行き来する大きな視点への道筋も示されました。
ご講演で紹介された有吉佐和子著『非色』(河出文庫),そして小手川先生の『現実を解きほぐすための哲学』(トランスビュー社)にも,考えるためのヒントが詰まっていると感じました。
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